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【映画レビュー】吉田修一原作「怒り」ーあなたは他者はどれくらい信用できますか?ー

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どうもメガネです。ずっと観なきゃと思ってきた「怒り」をようやく初視聴。近年稀にみる豪華俳優陣たちが織りなす群像劇。ややネタバレ気味に書いている部分もあるので、未視聴の方は要注意。

あらすじ

八王子の住宅街で若い夫婦が残虐に殺された。犯人は数時間にわたり殺害現場に留まり、シャワーを浴び、逃げた。犯行現場の壁には被害者の血で「」と書かれていた。警察は犯人を「山神」という男と断定し、全国指名手配するも捕まらないまま1年が経過。整形後のモンタージュをテレビを通じて公開する頃、東京、千葉、沖縄で山神のモンタージュと似た特徴を持つ経歴不詳の三人の男が現れた。男たちは徐々に周囲に溶け込んでいくのだが・・・

総評:9/10

千葉編のラストで泣いた。目を背けたくなるようなひどいシーンもたくさんあったけど、観てよかったと思ってる。

本作はもちろん登場する三人の謎の男のうち「誰が山神なのか?」というミステリー的な要素を孕んでいるわけだけど、それ以上に「他者をどれくらい信じられるか」というシンプルでいて奥深いテーマについてよく考えられて作られている。三人の男たちは経歴不詳という怪しさをもちながらも、人として当然の暖かさや誠実さを持っていて(あるいは持っているように他人には見えて)、残虐な殺人を起こしたサイコパスにはとても見えない。一方で部分的な不可解さが個人の中で拡大していくことで、疑わしさはグルグルと螺旋状に大きくなっていく。千葉編の途中、洋平が田代が左利きであることを理由に疑いを強めていくシーンがあるが、非常に描き方がうまい。客観的に観てみれば左利きなんていう属性は特殊性もないことなんだけど、疑心暗鬼になった人間には妙に辻褄があってしまう。

信じる気持ち、信じたい気持ち、信じてもらいたい気持ち」そういった感情の移ろいを描写の中から拾い上げていくのがこの映画の楽しみ方の一つだと思う。「好きなのに疑ってひどい!」とか「そんなんで信用するなよ」といった個人の価値観なんて無意味でナンセンスだと僕は思う。

三人の男たち(ネタバレなし)

東京編

一人目の男はゲイの青年、直人(綾野剛)。

ゲイたちが集うハプニングバーで優馬(妻夫木聡)と出会い、優馬の家に居候するようになる。優馬と愛を育んでいくが、頑なに過去を語りたがらず、ある日突然優馬の前から姿を消す。失踪する直前、優馬は銀座のカフェで女性と親しげに話す直人を目撃し、そのことで口論になる。優馬は直人の失踪後、「山神だったのではないか?」という疑念を持つようになり、直人が使っていた日用品や洋服を捨てる。

右頬に山神と同じ三つのホクロがある。

個人的にはもっとも山神の人物像と遠い存在。

千葉編

二人目の男は千葉房総の漁協で働く田代(松山ケンイチ)。

千葉の漁港で働く洋平(渡辺謙)は三ヶ月前に家出した娘・愛子(宮崎あおい)を東京の風俗店で発見し、実家に連れ帰る。数ヶ月前に漁港で働くようになった田代は愛子と親しくなり交際するようになる。しばらくして二人は同居を始めるが、経歴のわからない田代を不審に思った洋平が調べると田代という名前や過去の経歴は嘘だったことがわかる。愛子によれば過去に親が多額の借金を残し、暴力団から追われているという。疑念が強まる中、愛子は電話で田代に「人を殺して逃げてるの?もし違うなら帰ってきて」と伝えると、田代は帰ってこなかったため、愛子は警察に通報する。

警察が公開した美容整形外科の監視カメラに映った男と酷似している。

沖縄編

三人目の男は沖縄で放浪するバックパッカー田中(森山未來)。

少し前に母親の奔放な事情で東京から越してきた少女・泉(広瀬すず)は、現地の少年・辰哉と親しくなり、辰哉のボートで離れ小島まで行くのが趣味。ある日、人の住んでいないはずの島で生活するバックパッカーの田中と出会い、親しくなる。ある土曜、辰哉と那覇まで映画を観た帰り道、たまたま田中と会い、三人は夕食をとって別れる。泉は泥酔する辰也を追っていると見知らぬ場所に迷い込み、そこで米兵に強姦される。恐怖から隠れていた辰哉は警察に通報しようとするが「誰にも言わないで」と泉に懇願される。秘密を抱えた辰哉は次第に田中と親しくなり、田中は辰哉の両親が経営する民宿で働くようになるが、ある日「泉がレイプされている現場を自分を見ていて、震えてなにもできなかった」と辰哉に告白し、涙を流す。その晩、田中は民宿で暴れ、逃亡する。

山神と同じようにゴミを几帳面に並べる癖がある。

三人の男たちの真実(ネタバレあり+感想)

東京編

直人が去ってからしばらく経ち、優馬は銀座のカフェで、以前直人が親しげに話していた女性を見つける。「直人がどこにいるか知りませんか?」と話しかけると女性は直人と同じ施設出身だったことが発覚。さらに直人は生まれつき心臓が弱く、公園で倒れ死んでいたことがわかる。女性から直人が優馬を心から大事に思っていたことを聞かされた優馬は、店を飛び出し涙を流す。

妻夫木聡のゲイ役がはまり役すぎてすごかった。都会的で洗礼されていて、オープンな雰囲気がベストマッチ。ラストはかなりジーンときました。そして二度と会えない二人のことを考えると非常に切なくなります。

千葉編

愛子の通報により、警察がやってきて田代の指紋を採取。愛子は朝、田代のカバンに全財産の40万円を逃走費用として入れたことを洋平に告白します。警察による鑑識の結果、指紋は山神と一致しませんでした。愛する人を信じきれなかったことを悔やみ泣きじゃくる愛子。そこへ田代から電話があります。電話に出た洋平に「ご迷惑おかけしてすみませんでした。二度と姿を表しません」という田代。おそらく田代は愛子から疑われたことがショックだったのと、自分という存在が人を苦しめ不幸にすると考えて失踪したのだと思われる。「お前になにがあっても俺たちが守るから、頼むから戻ってきてくれ」と田代に伝える洋平。東京駅にいる田代を愛子は迎えにいく。

千葉編で涙腺崩壊。田代がめっちゃいいんだよ。純朴でなんでも自分で抱え込んでしまう。自分なんか幸せになれないって顔しながら、それでも誰かといる幸せがすごく大切で。電話で田代が「迷惑かけてすみません」って言った瞬間に涙が止まらなくなった。だって迷惑なんてかけてないんだもん。それでもそうやって自分の中で解釈することでしか生きてこれなかった田代の人生を思うと本当につらく悲しい。でも田代のラストがハッピーエンドでよかった。

沖縄編

民宿から逃げた田中を追って、辰哉は田中がもともと住んでいた離島までボートで向かう。これまで踏み込んだことのなかった田中の寝床に入るとそこには壁に掘られた「」の文字。外から男のうめき声が聞こえ、辰哉が覗くとそこにはナイフで自分の顔に傷をつける田中の姿が。辰哉を見つけた田中は泉のレイプを実は楽しんで見ていたと笑いながら言う。これまでと全く別の顔を見せ、泉を侮辱する田中に辰哉は怒りに震える。落ちていた鋏で田中の腹部を貫いた辰哉は、壁に刻まれた「米兵にレイプされている女を見た。知ってる女だった。ウケる」という文字を上から擦って消そうとする。田中=山神は浜辺で絶命し、辰哉は警察に捕まる。田中=山神が沖縄で逃亡生活していたことがニュースでも報道され、泉は一人で辰哉のボートを使い、離島に。辰哉が消した文字を見て、泉は涙を流す。泉は白い砂浜で海に向かって大声で叫び、前へ進んでいくことが示唆されたところで物語は幕を下ろす。

沖縄編も見応えありましたね。広瀬すず!この間の三度目の殺人ではその演技を酷評しましたが、本作では目を背けたくなるような体当たりの演技を見せてくれます。森山未來のサイコパス爆発の演技もヤバすぎる。

まとめ

いやミーハーで悪いけど、ぶっちゃけ田中が犯人でよかったよホント(笑)ゴミの置き方でかなり怪しいとは思ってたんだけど、最後まで確信持てず。ぼかし方とか疑わせ方とかが絶妙にうまくて、最後まで楽しく観られました。あと観なきゃと思って、残ってるのは役所広司の「乾き」。うーん。来週にしようかな(笑)